肩がぶつかった時、なぜ怒りが湧くのか?―心理学で見る心の反応
怒りの裏に隠れた本当の感情
街ですれ違ったとき、肩がぶつかった瞬間にカッとなってしまった。
そんな話、よく耳にしませんか?
ときには、たったそれだけのことで口論になったり、最悪の場合、事件にまで発展してしまうこともあります。
「たかが肩がぶつかったくらいで、なんでそんなに怒るの?」と疑問に思う人もいれば、「いや、相手が謝らないのが腹立つんだ」と感じる人もいるでしょう。
でも、この“カッとする気持ち”の裏側には、もっと深い心の動きが隠れているんです。
怒りというのは、実は「二次感情」と呼ばれていて、本当の感情(一次感情)はその奥にあります。
つまり、最初に感じているのは怒りではなく、もっと繊細な感情なんですね。
たとえば、
肩がぶつかったのに、相手が謝らなかった。
そのとき私たちは、無意識に「自分を大切にされていない」「軽く扱われた」と感じてしまうことがあります。
その瞬間に心の奥底に眠っていた感情、たとえば悲しみや不安、孤独感のようなものが刺激され、それが怒りとなって表に出てくるんです。

怒りの根っこにある「思い込み」と心のパーツたち
人はそれぞれ、育ってきた環境や過去の経験によって、無意識に「自分は大切にされない」「愛されない」という思い込みを抱えていることがあります。
そうした思い込みが心の奥にあると、ちょっとした出来事――たとえば肩がぶつかって相手が謝らなかった、というだけで「自分を否定された」「軽んじられた」と深く傷ついてしまうんです。
この反応は、ポリヴェーガル理論でいうところの「防衛モード」に切り替わってしまった状態とも言えます。
ポリヴェーガル理論では、人の神経システムには大きく3つの状態があります。
- 安心して落ち着いている状態(腹側迷走神経系)
- 不安や怒りで戦おうとする状態(交感神経優位)
- 無力感や絶望でシャットダウンする状態(背側迷走神経系)
肩がぶつかって「ムカッ」と反応してしまうとき、多くの場合は②の“戦うモード”に切り替わっていて、身体が危険を感じて身を守ろうとしているんです。
でも実際は、命の危険があるわけじゃない。それでも、自分の中の「過去の痛み」が刺激されると、心と身体が一気に過剰反応してしまうんですね。
ここで少し、パーツ心理学の考え方を紹介します。
私たちの心の中には、いろんな“パーツ”(内なる自分)がいて、それぞれが自分なりに頑張って生きてきました。
たとえば、
- 「他人に軽く扱われたくない!」と必死に怒ってくれるパーツ
- 「どうせ自分なんて大切にされない…」と傷ついているパーツ
- 「ちゃんと謝ってほしい」という正義感のパーツ
これらのパーツたちは、本当はみんな「自分を守りたい」「愛されたい」と思って行動しています。
怒っている自分も、拗ねている自分も、全部が大切な存在。
怒りを否定するのではなく、「なんでこんなに反応してるんだろう?」と、ちょっと立ち止まって内側に耳を傾けてみると、本当の気持ちが見えてきます。
繰り返す人間関係のトラブルは、過去の痛みが関係しているかもしれない
肩がぶつかって怒る・・・そんな一見ささいな出来事にも、自分の中の深い「思い込み」や「過去の経験」が関係していることがあります。
これが無意識のうちに人間関係全体にも影響を与えていて、
- すぐに人を疑ってしまう
- 相手の一言に傷つきやすい
- 自分ばかりが損をしている気がする
そんな苦しさの原因になっていることも少なくありません。
でも、気づいたときこそがチャンスです。
「自分には、怒る理由があったんだ」
「本当は、悲しかったし、大切にされたかったんだ」
そうやって自分の内側の声に気づけたとき、人との関係も、自分との関係も、少しずつ変わっていけます。
怒りの奥にある「本当の気持ち」に気づく
怒りは悪者じゃありません。
ただ、心の中の“本当の気持ち”を守るために、ちょっと強引な手段で叫んでいるだけなんです。
「自分は大切にされたい」
「無視されたくない」
「わかってほしい」
そんな本音に気づけたとき、怒りは少しずつやわらぎ、心の中に余白が生まれてきます。
怒りを乗り越えるために
肩がぶつかってカッとなった時、その感情にどう向き合えば良いのでしょうか。
まず大切なのは、怒りを感じたときに「なぜ怒っているのか」を自分で理解することです。
自分の怒りの裏にある本当の感情を見つけ、その感情に優しく寄り添うことが、感情を解放する第一歩となります。
また、リラックスする方法や深呼吸をすることで、徐々に体がリラックスし、安全な状態を取り戻すことができます。(関連記事:「心の傷は体が覚えている」ソマティック心理学で、安心を取り戻す方法)
そうすることで、過剰な反応を抑えることができ、冷静に状況を判断できるようになります。
さらに、パーツとの対話でどんな自分も認められるようになることで、他人の行動に対しても過剰に反応せず、自分の価値をしっかりと認めることができるようになります。

もし、ひとりで抱えているなら
もしあなたが、「どうしてこんなにイライラしてしまうんだろう」「人間関係がいつもこじれてしまう」と感じているなら、それはあなたの心が、ちゃんとサインを出している証拠です。
一人でがんばりすぎなくて大丈夫です。
あなたの中のパーツたちにやさしく気づいていく作業は、安心できる場所で、誰かと一緒に取り組むこともできます。
わたしのカウンセリングでは、そういった“心の奥の声”に寄り添いながら、一緒に少しずつ、軽くなるお手伝いをしています。
あなたがあなた自身をもっとやさしく感じられるように
人との関係に少しだけ余裕が持てるように
そんな変化がきっと訪れます。
気になる方は、よかったらこちらからカウンセリングの詳細をご覧くださいね。
もし長い記事が疲れるなと感じたら、エッセイカテゴリーに短めの文章もあります。
気軽に読める内容なので、ちょっとした息抜きにどうぞ。
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