なぜパニック発作が起きるのか?体験談とともに学ぶ、発作のメカニズムと対策
パニック発作は「心が弱いから」じゃない。体があなたを守ろうとしてるんです
「突然、息ができなくなる」「心臓がバクバクして、このまま死ぬかもしれないと思った」
そんなパニック発作を経験したことはありますか?
あるいは、そんな状態になってしまう自分を責めて、「どうして私はこんなにダメなんだろう」と苦しんでいる方もいるかもしれません。
でも大丈夫。
パニック発作には、ちゃんと理由があります。
そしてそれは、「あなたの体があなたを守ろうとしている」サインでもあるのです。
今回は、カウンセラーである私が、ポリヴェーガル理論やソマティック心理学の視点から、「パニック発作はなぜ起きるのか?」を、わかりやすくお伝えします。
私の体験:突然、襲われた発作
私は十代のある日、電車に乗っていた時、突然強烈な発作に襲われました。
めまい・過呼吸・吐き気・動悸・冷や汗、それはものすごく、死んでしまうのではないかと思いました。
たまたま座っていたので倒れはしませんでしたが、呼吸ができなくなり洋服を緩めたり、必死で吐き気と闘いました。
しかし自分の最寄り駅に着くと、嘘のように発作が収まったのです。
私は自分に何が起こっていたのかわかりませんでした。
その日を境に電車に乗るたび、この強烈な発作に襲われました。
あらゆる病院を回り検査をしましたが、異常なし。
こんなに死ぬかと思うほどの発作なのに、何の手立ても見つからないまま月日だけが過ぎました。
私はこの原因不明の症状が起きるたびに手足を強くつねったり引っ掻いたりし、発作以上の強めの刺激を与えることでしのいでいました。
また吐き気に対しては常にカバンの中に胃薬を常備することでお守りにしていました。
こうして私の症状に名前がつかないまま、10年の月日が流れたのです。

パニック障害だと判明したのは、別件でうつの症状が出たため訪れた心療内科でした。
診断がついてから、医師のすすめで認知行動療法や暴露療法にも取り組みました。
「怖い状況に慣れていく」「思考を変えれば不安も変わる」——そう言われました。
でも、私はどんなに頭で「大丈夫」と思おうとしても、体が勝手に恐怖モードに入ってしまうんです。
暴露療法では、発作の恐怖が逆に強化されてしまうこともありました。
「私って、治らないんじゃないか」と、何度も落ち込みました。
今になって振り返ると、私はずっと交感神経が優位な状態で生きてきたんだと思います。
扁桃体が常に興奮していて、脳は“危険だ!”と叫びっぱなし。
でも、最寄り駅に着いた瞬間にそれがスッと収まるのは、脳が「ああ、もう安全だ」って判断してくれていたからなんですよね。
この体験から私は、「意志でどうにかできること」と「体が反応してしまうこと」は、まったく別物なんだと痛感しました。
そうして私はこのパニック発作と、30年以上付き合うハメになってしまうのです。
しかし、医療的な治療をしなかったにも関わらず、今ではもう何年も発作は出ていません。
時には自分がパニック障害であったことすら、忘れているほどです。
だからこそ、体から安心を取り戻すようなソマティックなアプローチが、もっと広まってほしいと思っています。
パニック発作とは?〜脳と体の“誤作動”
パニック発作とは、強い恐怖や不安が突然あらわれ、心拍が速くなったり、息苦しくなったり、めまいや震え、吐き気などの身体症状が出る状態です。
でも、ここで注目してほしいのは、「実際に危険な状況じゃなくても」起こるということ。
つまり、脳と体が「命の危険だ!」と誤解して暴走しているんです。
ポリヴェーガル理論で読み解く、パニック発作のメカニズム
ポリヴェーガル理論では、私たちの神経系は以下の3つのモードを行き来していると考えます。
1. 社会交流モード(腹側迷走神経)
リラックスして、他者とつながれる「安心・安全」の状態。笑ったり、穏やかに話せたりするのはこのモードです。
2. 闘争・逃走モード(交感神経)
何かを「危険!」と感じたとき、逃げたり戦ったりするためのモード。心拍や呼吸が速くなり、筋肉が緊張します。
3. フリーズ・シャットダウンモード(背側迷走神経)
あまりに圧倒されると、体や感情をシャットダウンし、感覚が麻痺するような状態になります。
パニック発作は、交感神経モードの“暴走”
パニック発作のとき、体は一気に交感神経モード(闘争・逃走)に切り替わります。
これは本来、「命の危険から逃げる」ために必要な反応。
でも、現代の生活では「実際に逃げられる場所」も「本当の危険」も明確じゃない。
たとえば電車の中や職場、家の中で急に起きることもありますよね。
そんなとき、体だけが全力で逃げようと準備を始めるのに、「どこにも逃げられない」というジレンマに陥ります。
→ それが、動悸・息苦しさ・めまい・震えなどの症状として現れ、
→ 「このまま死ぬのでは?」というさらなる恐怖が加わる。
このループが、パニック発作の正体です。
ソマティック心理学の視点:体は“過去の記憶”を覚えている
ソマティック心理学では、「トラウマは脳だけではなく、体に記憶される」と考えます。
体に凍りついた“未完了の防衛反応”
たとえば、過去に怖い体験や、安心できない状況の中で「何もできずに我慢する」しかなかったとしたら・・・
本当は逃げたかった、泣きたかった、叫びたかった、震えたかった。
でもそれができなかった場合、体はその「やり残した防衛反応」を凍りついたまま抱え込むことがあります。
そして現在、ストレスやちょっとした刺激をきっかけに、そのエネルギーが一気に解凍される=パニック発作として出てくることがあるのです。
「怖い症状」ではなく、「守ってくれている反応」
ここまで読んでくださったあなたなら、こう思えるかもしれません。
「パニック発作って、体が勝手に暴走してるだけじゃなくて、 私を守ろうとしてくれている反応なんだ」って。
そうなんです。
体はいつだってあなたを守ろうとしている。
でもその防衛の仕方が、今のあなたには必要のない形で現れてしまっているだけなんです。

少しずつ「今ここ」に戻るためにできること
パニック発作をなくすには、「神経系のバランスを取り戻すこと」が大切です。
1. 安心できる感覚を、少しずつ増やす
たとえば・・・
・あたたかい飲み物をゆっくり味わう
・肌ざわりのいいブランケットに包まる
・ペットや好きな人と触れ合う
・心地よい音楽を聴く
こうしたことが、神経系に「今は安全だよ」と伝える手助けになります。
2. グラウンディングで“今ここ”を感じる
体の感覚に意識を向ける「グラウンディング」もとても有効です。
・足の裏を床に感じてみる
・呼吸をゆっくり、吐くことに意識を向ける
・手のひらをこすり合わせて、温かさを感じてみる
こうした感覚に意識を戻すことで、暴走しかけた神経系が「今ここ」に戻りやすくなります。
脳と神経をケアするためにできること
パニック発作の背景には、「脳の誤作動」が深く関係しています。
特に、危険を察知するセンサーである扁桃体が敏感になっていると、わずかな刺激でも体が“命の危機”と判断してしまうのです。
そんな状態のとき、私たちができることの一つは、神経をこれ以上刺激しないこと。
たとえば、以下のようなものは扁桃体の興奮を強めてしまうことがあります。
- カフェイン(コーヒー・エナジードリンクなど)
- アルコール(飲んだ後に不安感が強くなる人も)
- 睡眠不足や夜更かし
- 衝撃的なニュースやSNSの刺激
カフェインやアルコールは「リラックスのため」と思って摂ることも多いですが、実は脳にとっては“興奮系のスイッチ”を押してしまう存在。
体調や神経系が不安定なときには、控えてみるのも一つの手です。

あなたは弱いんじゃない。とてもがんばってきただけ
パニック発作を経験している人の多くは、とてもがんばり屋さんで、まわりに迷惑をかけないように、ずっとがまんして生きてきた人です。
だからこそ、体が「もう限界だよ」と教えてくれているのかもしれません。
あなたは、悪くない。
あなたは、壊れてなんかいない。
むしろ、あなたの体はずっと、あなたの味方だったんです。
不安が強いとき、自分の状態がよくわからないとき、そんなときは一人でがんばりすぎず、必要なサポートを受けてください。
私は、安心できる場所で、あなたの体と心に寄り添いながら、少しずつ「安心」の感覚を取り戻していくお手伝いをしています。
いつでも、あなたの味方です。
もし長い記事が疲れるなと感じたら、エッセイカテゴリーに短めの文章もあります。
気軽に読める内容なので、ちょっとした息抜きにどうぞ。
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