忙しすぎる思考の裏にあるもの 〜感じることをやめたあなたへ〜
「頭の中が、ずっと忙しい」
「いつも何か考えてしまう。止めたいのに止まらない」
そんな風に感じていませんか?
何らかのトラウマを抱えている人ほど、思考が止まらなくなりがちです。
それは決して「性格の問題」ではありません。
実はこれ、心と体が無意識にやっている“生きるための戦略”なのです。
今回は、この「思考が忙しい状態」の背景にあるメカニズムを、トラウマの視点から優しくご説明いたします。
思考が止まらないのは、あなたが弱いからじゃない
トラウマ体験がある人は、常に心のどこかに「不安」や「恐れ」があります。
そのため、脳は常に「危険を回避しよう」とフル稼働し続けます。
この状態では、安心よりも警戒が優先されます。
・こんなこと言ったら嫌われるんじゃないか?
・またあんな風に傷ついたらどうしよう・・・
・ちゃんとしなきゃ、迷惑かけちゃう・・・
こんな風に頭の中はいつも、ネガティブな想像でいっぱい。
でも、これはあなたが「考えすぎる性格だから」ではありません。
感じるのが怖すぎたから、思考でごまかしてきただけなんです。

感じることが怖かった
トラウマによって傷ついた心は、再び同じように傷つくことを極端に怖れます。
そのため、悲しみや怒り、不安といった「感情」や、体の中に湧き上がる「感覚」そのものを避けようとします。
たとえば、過去のフラッシュバック。
突然あの時の光景がよみがえったり、心がザワザワして、動悸がしたり、呼吸が浅くなったり。
そのつらさを感じたくなくて、脳は無意識に「感じる」ことをストップして、かわりに「考えること」で意識を埋め尽くします。
これが「思考が忙しくなる」正体。
心を守るために、“あえて”感じないようにしてきたんです。
麻痺させたのは、生き抜くためのサバイバル術
「感じないようにする」って、一見悪いことのように思えますよね。
でも、実はこれ、とても高度なサバイバル術。
感情をすべて感じていたら、つらさに押しつぶされて、心が壊れてしまっていたかもしれません。
だからこそ、あなたは無意識に「麻痺」を選んだ。
これは命を守るための知恵だったんです。
ポリヴェーガル理論では、この状態を「背側迷走神経優位」と言います。
心も体もシャットダウンして、感じないようにして、とにかく「これ以上傷つかないように」生きてきた状態です。
この反応は、あなたが弱いから起こったわけではありません。
あなたの体が、ちゃんとあなたを守ろうと働いた証なんです。

自分の感情や感覚がよくわからないのは自然なこと
「感情がよくわからない」
「自分が何を感じているのかピンとこない」
そう悩む方は本当に多いです。
でもそれも、体と心が長年かけて“感じないクセ”を身につけてきたから。
それだけ必死に守ってきたということなんです。
だから、今うまく感じられなくても大丈夫。
焦らなくても大丈夫。
少しずつ、“感じても安全なんだ”という経験を重ねていけばいいんです。
そのために必要なのが、「安心感」です。
安心できる環境で、感情はゆっくり戻ってくる
感情を感じるためには、まず「安全」が必要です。
ポリヴェーガル理論では、「安全だと感じることで、人は回復モードに入る」とされています。
この状態は「腹側迷走神経優位」と呼ばれ、リラックスしながら他者とつながれる状態です。
この時、体はようやく「麻痺モード」から目覚めて、凍りついていた感情や感覚が、少しずつ動き始めます。
このプロセスでは、ソマティック(身体的)なアプローチもとても役立ちます。
たとえば、深い呼吸、ゆったりした動き、自分の体に触れること・・・
小さな「安心」を感じることから始めて、少しずつ、体が「今は安全だよ」と学んでいけるんです。
感情や感覚が戻ると、「本来の自分」が見えてくる
長年、麻痺させてきた感覚を取り戻すと、自分の内側に眠っていた“エネルギー”が動き出します。
涙が自然に出てきたり、「こんな風に感じてたんだ」と自分に気づいたり、それだけでもう、回復の扉は開いています。
自分本来の感情が素直に出せるようになると、まるで別人のように変化する人もいます。
でもそれは「変わった」のではなく、元々あった“あなたらしさ”が戻ってきただけなんです。
今まで、恐れやトラウマに覆い隠されていただけ。
あなたの中には、もともとその強さやしなやかさが、ちゃんとあるんです。

だから、諦めないでほしい
「こんな自分なんて」
「人生なんてこんなものだ」
そんな風に思ってしまう日もあるかもしれません。
でもどうか、諦めないでほしい。
あなたが麻痺させたものの中には、ちゃんとあなたの命の力が眠っている。
その力は、感じることを取り戻したとき、あなたの中からあふれ出します。
それは、自信や元気、人とつながる力となって、あなたの人生を支えてくれるはずです。
トラウマに覆われた“生きづらさ”の奥には、本当のあなたが、ちゃんと息をして待っています。
一歩ずつでいい。
感じることを、思い出していきましょう。
そしてあなたが「自分の命を、生きてる」と実感できる日が来ることを、私は心から願っています。

「感じること」を避けてきたのは、あなたが弱かったからじゃありません。
それは生き抜くために、必要だったから。
でも今、その“感じる力”を少しずつ取り戻していくことで、あなた本来のエネルギーが目を覚まし始めます。
もし、自分ひとりではどう向き合えばいいかわからないと感じるなら、カウンセリングで一緒にそのプロセスを歩んでみませんか?
トラウマを理解し、心と体に優しく寄り添いながら、「生きづらさ」からの解放を一緒に目指していきましょう。
オンラインでお話できますので、まずはお気軽にご相談ください。
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