トラウマ克服には「準備」が必要です ─ 心の体力を育てて安心して向き合う方法
トラウマの克服は「準備」からはじまる心の登山です
カウンセリングで「トラウマを癒したい」と願う方はたくさんおられます。
でも、いきなりその深い記憶に飛び込もうとすると、心がびっくりしてしまうことがあるんです。
とくに「昔のことは思い出したくないけど、今の生きづらさはなんとかしたい」と感じている方にとって、カウンセリングの中で過去を深く掘り下げることが負担になってしまうこともあります。
だからこそ、私のカウンセリングでは「いま、何に困っているのか?」という“現在”に意識を向けます。
過去に何があったとしても、癒しは「今ここ」で起きる。
これが、当カウンセリングルームが大切にしている基本のスタンスです。
トラウマと向き合うときに必要な「準備」とは?
トラウマを克服するためには、まるで登山のような「準備」が必要です。
たとえば、見知らぬ山にいきなりサンダルやTシャツで登るでしょうか?
しませんよね。登るには、地図を持ち、靴を履き、水を用意し、体力もつけてから向かいます。
トラウマに向き合うことも同じです。
心の地図や装備がないまま、いきなり過去の痛みに飛び込むと、逆に傷を深めてしまう危険性があります。
ここでいう「準備」とは、たとえば次のようなことです:
- 自分の心の体力(自己調整力)を育てる
- 安心できる関係性を築く
- 感情を安全に扱うスキルを身につける
- 小さな成功体験を積み重ねる
こうした準備を積むことで、私たちは過去のトラウマに圧倒されず、やさしく丁寧に向き合っていくことができるのです。

過去を無理に語らないことの意味
「トラウマって、やっぱり思い出して話さなきゃいけないんですよね?」と聞かれることがあります。
たしかに、カウンセリングでは過去を扱うことがあります。
でも、過去の話をすればするほど回復するわけではないんです。
むしろ、つらい記憶を何度も語ることによって、感情が再活性化されてしまい、カウンセリングの後にフラッシュバックや落ち込みが起こる方もいます。
ですから当カウンセリングルームでは、無理に過去を語る必要はありません。
大切なのは、「いま、あなたが何を感じているか」「どんなことでつらさを感じているか」
その“現在”の感覚こそが、癒しの入り口なのです。
(関連記事:トラウマは過去を話さなくても癒せます~あなたの心を守る安心の克服法~)
「癒し」は今この瞬間に起きる
「癒すためには、過去に戻らなきゃ」と思う方も多いのですが、本当の癒しは“いまここ”の中でしか起こりません。
なぜなら、私たちの神経系は「今、安心できているか」を常にスキャンしています。
過去の話をしているときでも、今この瞬間に安心できていなければ、心は安全だと感じることができません。
逆に、安心できる関係性の中で、呼吸が深まり、心が少しほどけたとき――その“今ここ”の体験こそが、トラウマを少しずつほどいてくれる大切な癒しのプロセスなのです。
あなたが感じている「つらさ」や「違和感」は、いまの生活や人間関係の中にヒントがあります。
そこにやさしく気づいていくことで、自然と心の深い部分にも変化が起きていくのです。
トラウマ克服に必要な「心の体力」とは?
心にも体力があります。
たとえば、普段は我慢できるような出来事も、疲れていたり睡眠不足だったりすると、やけにイライラしたり涙が出てきたりすること、ありませんか?
それが、心の体力が落ちている状態です。
トラウマと向き合うには、この「心の体力」がとても大切です。
なぜなら、過去のつらさに触れるには、ある程度の安心感と安定感が必要だからです。
心の体力とは、たとえばこんな力です
- 感情を受け止める余裕
- 不安になっても立ち直る力(レジリエンス)
- 自分を安心させる術(セルフコンパッション)
これらは生まれつきのものではなく、後からでも育てることができます。
カウンセリングでは、こうした「心の体力」を育てるワークも行っています。
「リソース」が多い人ほど回復しやすい理由
「リソース」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、心理学では「自分を助けてくれる力」や「支えになる資源」のことを意味します。
たとえば、信頼できる人、趣味、ペット、自然、安心できる空間、落ち着ける音楽、自分の得意なことなど――これらすべてが、あなたのリソースです。
トラウマと向き合うとき、このリソースが多ければ多いほど、心は回復しやすくなると言われています。
まるで、リュックに食料や水、地図がたくさんあるほど登山が楽になるように。
当カウンセリングルームでは、リソース探しや育てることに多くの時間を使います。
「これもリソースなんですね」と驚かれる方も少なくありません。
あなたの中にも、まだ気づいていない“癒しの力”が、きっと眠っています。

トラウマと向き合う準備ができていなかっただけ
これまでにも「トラウマに向き合おうと頑張ってきたのに、うまくいかなかった」という方もいるかもしれません。
でも、それはあなたの力不足ではありません。
単に、“準備”が整っていなかっただけかもしれないのです。
たとえば、心の体力が足りていなかったり、安心できる人とのつながりがなかったり、自分のリソースに気づけていなかったり。
そうした“準備不足”の状態で無理にトラウマに向き合おうとすると、逆に苦しみが強まってしまうことがあります。
大切なのは、何度でもやり直せるということ。
そして、今回は「しっかり準備して」登るという新しい選択ができるということです。
あなたにはその力があります。何もあきらめる必要はありません。
「回復できる人」と「できない人」の違い
トラウマの回復には個人差がありますが、明らかに“回復しやすい人”には共通点があります。
それは、自分の中に「回復できる力がある」と信じはじめられるかどうか、という点です。
最初から自信がある必要はありません。
「もしかしたら、私も変われるかもしれない」という小さな希望で充分なんです。
そこから少しずつ、自分のリソースに気づき、安心できる関係性の中で経験を積み、心の体力が戻っていく。
その積み重ねが、“気づけば不安が薄れている”という状態へとつながっていきます。
回復のスピードは人それぞれ。
だからこそ、「誰かと比べないこと」「今の自分を責めないこと」が、とても大事なんです。
カウンセリングでできる「準備」のためのサポート
当カウンセリングルームでは、トラウマ克服の“下準備”に重点を置いています。
たとえば、
- 緊張しすぎた神経をゆるめる呼吸や体のワーク
- 安心できる人間関係や場所を見つけるサポート
- 「感じる」力を取り戻すための五感へのアプローチ
- 感情を無理なく扱えるようになるステップ的な練習
- 自分のリソースに気づくための棚卸しワーク
こうした土台を整えてから、必要があれば過去の体験にも触れていきます。
でも、それはいつでも「あなたのペース」で進めていくものです。
無理に話さなくても、無理に泣かなくても、心の準備が整っていれば癒しは自然に始まっていきます。
トラウマ克服は「安全な登山」から
トラウマと向き合うということは、決して勇気だけで進めるものではありません。
- 登る山を見極める
- 心の体力を整える
- 安心できる場所や人を確保する
- 自分を支えるリソースを育てる
こうした“準備”をしっかりしておくことが、トラウマ克服の大前提になります。
そして、癒しは「今この瞬間」にこそ起こります。
過去を語らなくても、泣かなくても、責めなくてもいい。
あなたがあなた自身を少しでも大切にしようとする、その意志がすでに回復の始まりです。
安心できる関係の中で、一歩を踏み出しませんか?
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
もしかしたらあなたは、もう何年も「しんどい」と感じながらも、どうしたらいいかわからず過ごしてきたのかもしれません。
そんな中でこの記事にたどりついてくださったあなたは、もうすでに「変わりたい」と願っているのだと思います。
カウンセリングでは、あなたが無理なく「準備」をしていけるようサポートします。
過去を話す必要はありません。
「今、何に困っているのか」そこから一緒に見つめていきましょう。
心の登山は、ひとりではなく、伴走者がいることで安心して進んでいけます。
まずは一度、お話してみませんか?
お待ちしています。
もし長い記事が疲れるなと感じたら、エッセイカテゴリーに短めの文章もあります。
気軽に読める内容なので、ちょっとした息抜きにどうぞ。
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