私たちが「触れること」で癒える理由~皮膚・脳・トラウマの深い関係
なぜ、今「触感」なのか?
こんにちは、トラウマセラピストmiwakoです。
日々の生活の中で、私たちはどれほど
「頭(思考)」に偏った時間を
過ごしているでしょうか。
仕事の悩み、将来への不安、
SNSから流れてくる膨大な情報。
気がつくと私たちは、
頭の中だけで問題を解決しようとし、
疲れ果ててしまいます。
でもふと思い出してみてください。
ひどく落ち込んだとき、
誰かにそっと背中をさすられて、
心がスッと軽くなったことはありませんか?
あるいは、お気に入りの
ふわふわした毛布にくるまった瞬間、
張り詰めていた気持ちが
ゆるんでいくのを感じたことは?
実は、こうした「触感による癒やし」には、
単なる気休めではない、
私たちの生命の誕生にまで遡る
深い科学的根拠があるのです。
皮膚と脳は「同じ根っこ」から生まれる
なぜ、肌に触れることが心にまで届くのでしょうか。
その答えは、お腹の中の赤ちゃんが形作られる
「発生」のプロセスに隠されています。
受精卵が細胞分裂を繰り返し、
少しずつ体のパーツが作られていく初期段階で、
細胞は「外胚葉(がいはいよう)」
「中胚葉」「内胚葉」という3つの層に分かれます。
ここで驚くべき事実があります。
私たちの「皮膚(表皮)」と、
思考や感情を司る「脳・神経系」は、
どちらも同じ「外胚葉」から作られるのです。
いわば、皮膚と脳は同じ材料から切り分けられた
「双子」のような関係です。
専門家の間では、皮膚は「露出した脳」
あるいは「外に出た脳」とも呼ばれます。
胎児が子宮の中で、
視覚や聴覚よりもずっと早く、
最初に発達させる感覚も「触覚」です。
私たちはこの世に生を受けた瞬間から
(あるいはその前から)、
皮膚という「外側の脳」を通じて世界と対話し、
安心感や危険を察知してきたのです。
幼い頃、お気に入りの毛布やぬいぐるみが
手放せなかった経験はありませんか?
これは「ブランケット症候群)」とも呼ばれる、
実は理にかなった行動です。
言葉が未発達な子供にとって、
特定の触感は、脳へダイレクトに「安全」を伝える
最も信頼できる命綱だったのです。
(関連記事:「包まれる安心感」が心を癒す理由〜ブランケット症候群から見るトラウマと安全基地〜)
なぜトラウマケアで「触れる」が重視されるのか
トラウマケアの現場において、
今、この「皮膚」へのアプローチが
非常に重要視されています。
それには明確な理由があります。
トラウマ(心の傷)とは、
単なる「嫌な記憶」ではありません。
それは、耐えがたい恐怖や衝撃によって、
私たちの自律神経系が「凍りついた状態」になり、
脳の深い部分(脳幹や辺縁系)に
その感覚が閉じ込められてしまった状態を指します。
この状態にあるとき、
いくら言葉で「もう大丈夫だよ」「安全だよ」と
言い聞かせても、なかなか心には届きません。
なぜなら、思考を司る脳(大脳新皮質)よりも先に、
本能的な脳が「まだ危険だ!」と
警報を鳴らし続けているからです。
ここで鍵となるのが、皮膚を通じた
「ボトムアップ(体から脳へ)」のアプローチです。
心地よい触感や温かさは、
皮膚という「外側の脳」から自律神経へと、
言葉を介さずに直接メッセージを送ります。
「今、ここは安全だよ」
「あなたは守られているよ」
この感覚が神経系に伝わることで、
凍りついていた防衛本能が少しずつ溶け出し、
脳全体がリラックスモードへと
切り替わっていくのです。
また、トラウマを抱えると
「自分と世界の境界線」が分からなくなったり、
自分の体から意識が離れてしまう
「解離(かいり)」が起こることがあります。
皮膚に心地よい刺激を与えることは、
「ここからここまでが自分である」という
肉体的な境界線を再確認させ、
自分の中に安定した「居場所」を
取り戻す助けにもなります。

今日からできるセルフケア:触感で神経を調律する
特別なセラピーを受けなくても、
日常の中で「触感」を意識することで、
自分の神経系を穏やかに整えることができます。
いくつか具体的な方法をご紹介します。
①マインドフル・タッチ
自分の両手で、
自分の腕や肩をやさしく包み込むように
触れてみてください。
マッサージのように揉む必要はありません。
ただ、手のひらの温かさが肌に伝わるのを
じっと感じます。
「今、ここに自分がいる」という
安心感を味わう時間です。
②「質感」を味方につける
肌に直接触れるタオル、シーツ、パジャマ。
これらを「なんとなく」で選ぶのではなく、
自分が本当に「心地よい」「ほっとする」と
感じる質感のものに新調してみてください。
その小さな選択が、あなたの脳に24時間、
微細な安心を送り続けます。
③重みの安心感(ディープ・プレッシャー)
不安でそわそわして眠れないときは、
少し重みのある布団を使ったり、
大きめのクッションを抱きしめたりしてみてください。
適度な圧迫刺激は、
神経系を鎮静化させる効果があることが
科学的にも知られています。

あなたの肌は、あなたを守る最前線
皮膚は、単に体を包む袋ではありません。
それは、私たちが世界と出会い、
自分自身を守り、そして癒やすための
「最も身近な脳」です。
もし今、あなたが言葉にできない
生きづらさを抱えていたり、
頭が疲れ切ってしまっていたりするなら、
どうか一度、考えるのをやめて
「肌」の声に耳を澄ませてみてください。
温かいお湯に浸かる、柔らかい服を着る、
自分の手をそっと握る。
その小さな「触れる」という行為が、
あなたの脳を、そして心を、
深いところから抱きしめてくれるはずです。
一人で頑張りすぎてしまうあなたへ
ここまで「触れること」や
「皮膚と脳の関係」についてお話ししてきました。
もし今、あなたが「頭ではわかっているのに、
どうしても不安が消えない」
「体の中にいつも緊張感があって、
リラックスの仕方がわからない」と感じているなら、
それはあなたの性格のせいではありません。
あなたの神経系が、
ただ一生懸命にあなたを守ろうとして、
少し「お疲れ」の状態なのかもしれません。
皮膚が「露出した脳」であるように、
体の感覚を通じて心にアプローチするケアは、
一人で抱え込んできた重荷を下ろすための、
とても優しくパワフルな方法です。
私のカウンセリングでは、
言葉だけでは整理できない「体の感覚」や
「心の違和感」を大切にしながら、
あなたが本来持っている「安心感」を
一緒に取り戻していくお手伝いをしています。
「こんなことを相談してもいいのかな?」
そう迷う気持ちも、
どうぞそのまま持ってお越しください。
まずは、あなたがあなた自身の
「一番の味方」になれるよう、
安心できる空間でお話を聞かせていただけませんか?
もし長い記事が疲れるなと感じたら、
エッセイカテゴリーに短めの文章もあります。
気軽に読める内容なので、
ちょっとした息抜きにどうぞ。
あなたの心が軽くなる一言が
見つかるかもしれません。
エッセイはこちら














