トラウマ克服になぜ「リソース」が大切なの?〜心と体を整える“幸せホルモン”の話〜
つらい気持ちを手放そうとしても、うまくいかない…その理由
「過去のことを考えないようにしよう」
「もっと前向きに考えないと」
頭ではわかっていても、どうしても気分が重くなったり、ネガティブ思考から抜け出せなかったりしませんか?
これはあなたの「意志が弱い」からではなく、体がストレスモードに入っているからなんです。
特に、トラウマや強い不安、長年のストレスを抱えている人は、無意識のうちにずっと交感神経優位(=緊張・警戒状態)になっていて、「がんばらなくちゃモード」に入りっぱなしになっていることが多いんです。
そんな状態では、心の中をいくら言葉で書き換えようとしても、脳も体も「安心」を感じられず、逆に空回りしてしまうことも。
だからこそ必要なのが、“リソース”です。
「リソース」ってなに?
リソースとは、あなたに安心感や心地よさをもたらすもののこと。
たとえば、こんなものがリソースになります:
- 好きな香り(アロマなど)
- 心がほっとする音楽
- 柔らかい毛布や、好きな服の肌触り
- 自然の風景や、光に包まれた朝の空気
- 安心できる人とのつながり
- 深呼吸やストレッチなど、ゆったりした身体の動き
これらはすべて、「今ここ」の五感に働きかけてくれて、ストレスでピリピリしている神経をやさしくなだめてくれます。
ソマティック心理学(身体を通して癒す心理学)では、「体が安心を感じること」が回復の第一歩と言われています。
ポリヴェーガル理論でも、人は安心・つながりの神経モード(腹側迷走神経)に入ることで、回復と癒しがはじまるとされています。

幸せホルモンってなに?
リソース体験を通じて、私たちの脳内には“幸せホルモン”と呼ばれる物質が分泌されます。
このホルモンたちが、ストレス状態の脳と体をゆるめ、回復モードに導いてくれるんです。
たとえば、
- セロトニン
心を落ち着け、安定させてくれるホルモン。朝の光を浴びたり、一定のリズムで歩いたり、心地よい音楽を聴いたりすることで分泌されます。 - オキシトシン
安心感や信頼感をもたらすホルモン。「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」とも呼ばれ、人とのふれあい、ペットとのスキンシップ、温かい言葉のやりとりなどで増えます。 - ドーパミン
「楽しい!」「できた!」という快感や、やる気に関係するホルモン。自分にとって心地いいことをしていると自然に出てきます。
これらのホルモンが増えると、脳は「今、安全なんだ」「大丈夫かも」と感じられるようになります。
一方で、ストレスモードのときに出るホルモン
反対に、トラウマや不安が強いときは、ストレスホルモンが優位になります。
- アドレナリン/ノルアドレナリン
緊急事態に備えて体を戦闘モードにするホルモン。心拍数が上がったり、過呼吸になったり、常に緊張感があるときに分泌されます。 - コルチゾール
長期間のストレス状態で分泌されるホルモン。体を守る働きもありますが、分泌が多すぎると、うつ状態・慢性疲労・免疫力の低下につながります。
この状態が長引くと、脳や神経の働きが偏ってしまい、「安心」を感じにくくなってしまうんです。
「安心」がないと、心は変われない
「ポジティブ思考になろう」
「過去を乗り越えよう」
そう頑張っている人ほど、「安心の土台」がないまま思考だけでなんとかしようとしがちです。
でも、トラウマケアの視点から見ると、体と神経が安全を感じていない状態では、どれだけ前向きな言葉を唱えても届かないんです。
たとえるなら、火事の中で「落ち着いて〜」「冷静になって〜」と声をかけても、火が消えてなければ無理なのと同じ。
まず必要なのは、「安心しても大丈夫だ」と体が感じられる状態。
そのために、五感で心地よさを感じるリソースが必要なんです。
リソースを使うって、こういうこと
たとえば、こんな事例があります。
事例1:過去の失敗がよみがえって動悸がするとき
Aさんはふとした瞬間に昔のトラウマがフラッシュバックし、胸が苦しくなってしまいます。
そんなとき、あらかじめ用意していた“リソース・アイテム”であるアロマの香りをかぎながら、
お気に入りの柔らかい布に触れて、ゆっくり深呼吸します。
数分たつと、胸のざわざわが少しずつ静まり、「大丈夫」と思える感覚が戻ってきます。
事例2:人と会うのが怖くて外出が不安なとき
Bさんは人混みが苦手で、外出前に不安が強まります。
出かける前に、家のベランダで植物に水をやり、手に土の感触を感じることで、今ここに戻る感覚を取り戻します。
体が「今、安全だ」と感じられることで、少しずつ外の世界にも足を向けられるようになってきました。
ポリヴェーガル理論から見るリソースの役割
ポリヴェーガル理論では、人の神経系は大きく分けて3つのモードを行き来しているとされています。
- 社会交流モード(腹側迷走神経):安心・つながりの神経。笑顔・呼吸・まなざしなどで活性化される。
- 闘争・逃走モード(交感神経):不安・焦り・怒りが強いときに働く。
- 凍りつきモード(背側迷走神経):無気力・解離・シャットダウンのような反応。
リソース体験を通じて、「社会交流モード」にアクセスできるようになると、脳も体も「大丈夫かも」と感じやすくなり、回復と癒しのプロセスが自然と進んでいきます。
安心は思考ではなく、体からつくるもの
トラウマや不安を乗り越えるためには、まず「安心」が必要。
その安心は、言葉や理屈ではなく、“体が感じるもの”です。
だからこそ、自分にとってのリソースを日常の中に取り入れることが大切。
小さなことでも、「あ、ちょっと心がやわらいだな」「今、気持ちいいな」
そんな瞬間を少しずつ増やしていくことが、回復の土台になります。

あなたの「安心の土台」を育てていきませんか?
カウンセリングでは、あなたが無理なく「安心」を感じられるように、体の感覚・五感・呼吸なども大切にしながら、やさしく進めていきます。
「自分ではどうにもならない」と感じていた不安も、安全な場の中で、少しずつほぐれていく感覚を一緒に育てていけたらと思います。
もし長い記事が疲れるなと感じたら、エッセイカテゴリーに短めの文章もあります。
気軽に読める内容なので、ちょっとした息抜きにどうぞ。
あなたの心が軽くなる一言が見つかるかもしれません。エッセイはこちら